
異変アリの中古車市場!1年に150台を見極めるクルマ選びのプロ 岡崎五朗さんに聞く、中古車?それとも新車?クルマの「換え活」は「価値」がポイント!
第3回目のテーマは、新車?それとも中古車? 最新のクルマ選びの「換え活」です。最近話題になっている新車不足の流れ、そしてそれに伴って中古車市場にも大きな動きがあります。どうやら「安いから中古車を買う」という、これまでの常識がちょっと変わってきているよう。
新車、中古車、それぞれを所有するメリットや購入の仕方を中心に、クルマ選びにおける最新の「換え活」について、岡崎さんのご意見を伺います。
中古車購入のメリットは「安く買えること」だったが……
――クルマの「換え活」をしようと思った時に、新車か中古車かで迷う人も多いと思うのですが、まずは、このところ注目度の高い「中古車」を買うメリットについて教えていただけますか?
岡崎五朗さん(以下敬称略):一般論で言うと中古車を購入するメリットは、ずばり「安く買えること」です。新車だったらとても手の届かないクルマが、3年くらい経つと、手が届くようになる。
それが、何よりの魅力です。
だから僕も、これまで新車より中古車の方を多く乗り継いできました。クルマ好きにとっては、こうした中古車の乗り継ぎがとても楽しいんです。ただ今はちょっと、その状況が変わってきています。
コロナ禍による、半導体不足が引き金となって、新車の生産数が大幅に減少している。また、ウクライナ問題から、サプライチェーン(※)への影響が出てしまって、それが生産数の減少を加速させています。
そのおかげで、安かったはずの中古車価格が上がり、更にはプレミアが付いてしまっている。できるだけ安く買い替えたい、と中古車購入を視野に入れていた人には、厳しい状況になっています。
(※)サプライチェーン:製品の生産過程において、原材料や部品の調達から販売に至るまでの一連の流れを指します。現在は、コロナ禍やウクライナ問題から、こうした既存の物流が大きく変化しています。
――価格高騰という部分と通ずるかと思いますが、中古車以外でも、例えばスポーツカーのような、街中で走る姿をあまり見かけないクルマの需要が急激に上がっている、という話も聞きます。
岡崎五朗:それはひとつには、「これからどんどん車が電動化されてしまうのであれば、今のうちにガソリン車のスポーツカーに乗っておこう」という気持ちが高まっているからでしょう。それに、「コロナ禍で旅行に行けないなら、クルマでも買っておこう」という需要もあります。どちらも、富裕層の発想なんですが。
――クルマを、そのような資産的な見方で買うという方々もいるようですね。
岡崎五朗:クルマに興味がなくても「もう少し時間が経ってから売ると儲かるから、買っておく」という人たちも、市場に入ってきていますね。クルマが投棄の対象になっていると思います。80~90年に作られた日本のハイパフォーマンスカー(※)なんて、当時の価格の数倍の値がつくなど、とんでもない金額になっているんです。
(※)日本のハイパフォーマンスカー:主にバブル期に潤沢な資金を掛けて開発され、80年代後半から90年代に発売された高性能な国産スポーツカーのこと。当時はメーカーが上限280馬力の自主規制をしていましたが、実力はそれ以上のものを持っている車が多く存在しました。現在、この時代のスポーツカーは中古車市場でかなりの高値で取引されています。
価値のあるクルマを選べば「貯金」にもなる
――こうした価格高騰の様子を見ていると、特に「若い人たちが買えるクルマ」が少なくなってしまっているように感じます。
岡崎五朗:本当にそうですね。
ただ、今の中古車市場の異常な状況は、バブルだと思います。バブルって、必ず崩壊すると思うんです。
そして新車の半導体やサプライチェーンの問題も、時期が来れば解決されると思います。
――いずれは新車の供給が増えて中古車の価格が落ち着くとしても、現状はどちらもまだ高価格の状況です。こうしたなかで、新車、中古車ともに、賢い「換え活」の方法はありますか?
岡崎五朗:先日、自分の所有しているスポーツカーに乗っていたとき、若者に声をかけられたんです。「どんな仕事をすると、こんな車に乗れるんですか?」と聞かれました。
そのとき僕は「自分がこれを買ったときは中古価格が900万円で、今売った場合これが1000万円くらいで売れる。こういうクルマを買ったときのローンって、いわば貯金のようなものだよ」と言ったんですね。「とりあえず300万円を目標に頭金を作れば、もっと買いやすくなるよ」って教えたら、「がんばります!」って帰って行った(笑)。
――そうしたクルマを選べば、それは「貯金」にもなるわけですね。ところで最近は、「残価設定ローン」(※)に注目している人も多いようですが。
岡崎五朗:たとえばある人気のイギリス製SUVでは、3年後の残価設定が8割にもなるといいます。ディーラーの残価は新車時の販売価格よりも高く値付けできないから8割なのですが、これを中古車販売店に売ると、定価くらいで売れてしまう場合もある。
――それはすごいですね。今まで中古車は「安いから買う」だったけれど、「高値になる可能性(=価値)があるから買う」という流れもあるんですね。また新車を乗り続けても、価値があるクルマなら損をしにくいというわけですね。
(※)残価設定ローン:あらかじめ将来の下取り価格を設定して、その価格を引いた残価に対してローンを組み、支払う方法。「残価」とは、将来車を買い替えるときに残っている下取り価格のことです。月々の支払い額を抑えることができるローンですが、残価にも金利が掛かるため元金の減りは遅くなります。支払い期間が終了したら車両を返却、もしくは買い取り、新車に乗り替えるなど様ざまなプランがあります。
新車を選ぶメリットは、技術と装備の「安全性」
――現在、市場がイレギュラーな状況とはいえ、中古車の本来の魅力は安さでした。それでは今、中古車から新車へ乗り替える場合の「メリット」とは何でしょうか?
岡崎五朗:最新の技術や、装備が手に入ることです。たとえば高齢者の方のクルマ選びの場合、安全デバイスはできるだけ多い、できればフル装備になっている最新装備のクルマに乗って欲しいです。安全装備は「ついうっかり」というミスをなくす、ドライバーにとってはとても強い味方です。
今年の5月から「サポートカー限定免許」(※)がスタートしましたが、今後は、高齢者全員がそうした安全装備を付けているクルマ以外乗れない時代も来るかもしれない。
高齢者にとって、外出の自由は健康にも効果的だといいます。そのためにも、安全なクルマを選んで欲しいですね。
(※)サポートカー限定免許:2022年5月13日に創設された運転免許。70歳以上で運転に不安を覚える高齢者に対して、免許の自主返納だけではなく、より安全な自動車などに限って運転を継続する、という選択を設けたものです。
「好き」を大事にするクルマの「換え活」で人生はさらに楽しめる!
――最後に、岡崎さんご自身がクルマの買い替えの「換え活」をするときに、心がけていることがあれば教えてください。
岡崎五朗:「好きなクルマを選ぶこと」ですね。
お金がない若い人たちには特にそれを勧めたい。彼らは 一生懸命働いたバイト代やお給料から、100万円だったり200万円をクルマに支払うわけです。
だったら新車にしろ中古車にしろ、大切なお金を使うわけだから余計に、「退屈なクルマには乗るなよ」「好きなクルマに乗ろう」、と言いたい。
今の状況はちょっと特殊ですが、普通はクルマを買えば、売るときは損をするものなんです。だから無難なクルマ選びをした場合、「それってお金の無駄なんじゃない?」と思います。
「機能」と「価格」だけで車を選ぶようになると、どんどん生活は味気ないものになっていきます。
僕はクルマを評価するとき、スペックなどの数字よりも、「このシート、しっくり来るな」とか「運転していて加速感が気持ち良いな」という、感覚の部分を大切にしています。
そして好きなクルマを選ぶと意識が変わる、と思っています。
僕は、子育てがある程度終わった時点でフランスのクルマに乗り換えたんですが、そうすると、着る服とか行く場所が自然と変わっていくんですね。
それってつまり、「自分が成長する」ということなんです。新車でも中古車でも、自分よりちょっと上の、少しだけ背伸びしたクルマを選ぶことで、それに見合う自分に“磨いていく”ことができるようになる。
自分の場合はそれが輸入車だったわけですが、いまは国産車のレベルもすごく上がってきています。単に燃費が良くて室内が広いだけじゃなくて、デザインもすごく良くなってきた。
今、クルマの買い替えをする選択肢は、かなり広がっていると思いますよ。
まとめ
環境負荷解消の担い手だとの認識を持っていたEVですが、多角的な視点から論じてくださる岡崎さんのお話を聞くと、必ずしもそうとは言い切れないことがわかりました。トータルに資源を節約できるものが、本当のエコカーであるとのこと。EV、FCV、ガソリン車、いくつもの選択肢がある中、自分たちのスタイルに合ったベストな自動車はどれなのか。その中でEVへの「換え活」の可能性がどれくらいあるのかを考えてみてはいかがでしょうか。
次回は、家族の人数や暮らし方が変わった場合などの、ライフスタイルの変化に合わせた自動車の買い換えがテーマです。子育て世代層の場合だと、どういった車に乗り換えをすればより良いカーライフが楽しめるのか、また、子育てが終わり夫婦二人だけになった場合の車の「換え活」についても、岡崎さんに自動車選びのご意見を伺います。
■プロフィール
岡崎五朗(おかざきごろう)
モータージャーナリスト / AJAJ理事
1966年生まれ。 モータージャーナリスト。
青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中