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2022.12.23
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1年間に試乗するクルマは150台以上。「生活を共にして気持ちが良いかどうか」がクルマ選びのポイント、という自動車評論家の岡崎五朗さんをゲストに迎え、3回にわたってクルマの「換え活」についてお聞きします。 (全3回の2回目/#3に続く

「どんなクルマを選ぶのがホントはお得?」1年に150台も見極める!クルマ選びのプロ 岡崎五朗に聞く、世代別・クルマの「換え活」

2回目のテーマは、「子育て世代」と「子育てを終えた世代」に向けた、クルマの「換え活」です。子育て世代でも、子どもの年齢によってクルマ選びの基準も異なります。また子育て卒業後は自分たちの両親を視野に入れる必要も。それぞれの世代層がライフスタイルに合った、よりよいカーライフを楽しむためには、どんなクルマを選べばよいのでしょうか。「ファミリー」を意識したクルマ選びと、これからのファミリーカーのお話を、自動車評論家の岡崎五朗さんに伺います。

子育て世代は3つのフェーズに分け、それぞれに合った車種を選ぶ「換え活」を

――今回は、「子育て世代」と「子育てを終えた世代」が選ぶクルマは何なのか? について、岡崎さんのお勧めをお教えください。

岡崎五朗さん(以下敬称略):これは「子育て世代」と「子育てを終えた世代」にざっくり分けるのではなく、それぞれのライフステージとして考えるとわかりやすいと思います。

――具体的に言うと、どういうことですか?

岡崎五朗:「子育て世代」で言うと、「子どもが小さいころ」、「中・高生になったころ」、そして「子どもが運転免許を取るころ」の3つくらいに分けてみる。

まず「子どもが小さいころ」ですが、チャイルドシートに乗せたり降ろしたりが多いので、スライドドアのミニバンがやっぱり便利だと思います。子どもが少し大きくなって自分でドアを開けるようになったときも、スライドドアだと駐車場で隣のクルマにぶつける心配がない。あとは雨が降ったときに、塾帰りの子どもを迎えに行くにも、ミニバンだと自転車を積むこともできます。
サイズ的には、5ナンバーまでのクルマ(*)でも十分実用的です。いまどきの軽自動車も、トールワゴンタイプならそれができます。

そして子どもがもう少し大きくなったら、サードシートを持つミドルサイズのミニバンに乗り換えるとよいでしょう。
シートをたためば、家族4人程度の荷物は十分積めます。週末はキャンプや旅行にも行けるし、普段も子どもの友達や、友達夫婦を乗せて買い物に出かけることもできる。そして実家に行けば、おじいちゃんとおばあちゃんを乗せられます。
僕も2人目の子どもが幼稚園生になったとき、このサイズのミニバンを買いました。

――小学生くらいまでは、「スライドドア」と「3列目シート」が必須項目となるわけですね。
(*)5ナンバー車:ナンバープレートの地名の横にある3桁の数字が、5から始まる自動車。
排気量が2000cc以下、全長4700mm以下、全幅1700mm以下、全高が2000mm以下の比較的コンパクトな自動車が該当します。

「子ども中心のクルマ」から、「大人だけの時間も楽しめるクルマ」に

岡崎五朗:子どもが中学校に入ると、段々と一緒に出かけなくなる時期を迎えますが、それでもたまにはキャンプとかに行っていたので、当時は「ステーションワゴン」に乗っていました。

――どうしてステーションワゴンに買い換えたのですか?

岡崎五朗:そのまま3列シートのミニバンに乗っていても、使い勝手はいいから問題はないんです。
でも、自分の場合はそれだと嫌だったんです。
たとえばひとりで運転しているとき。そして奥さんとどこかへ出かけたり、食事に行くとき。そんな時に、ちょっとステキな服を着て……なんていうシチュエーションの場合、ステーションワゴンやSUVの方が楽しくなりませんか?

――子どもが小さいときには「子どもたちのために」運転しようと思えるけれど、自分たちのためにクルマを運転するのであれば、確かにスタイリッシュなクルマで楽しんでみたいですね。いわば「子どもたち中心のクルマ」から「大人だけの時間も楽しめるクルマ」への「換え活」といってもよさそうです。

岡崎五朗:そうなんです。「お父さんが、男性に戻る。お母さんが、女性に戻る」というのを狙うのであれば、いつまでもミニバンに乗り続けないほうがいい。
ちなみに、家で旦那さんのことを“パパ”と呼ぶのをこの時に止めてみれば、さらに効果的です(笑)。

――クルマと共にライフスタイルも「換え活」していく時期なんですね。

岡崎五朗:とはいえ子どもも一緒に住んでいるわけで、彼らと行動を共にするときもある。2シーターのクーペやスポーツカーというわけにはいかないから、その際のチョイスが、ステーションワゴンやSUVなんです。
僕の場合は、ステーションワゴンの後にSUVへ乗り換えたのですが、このクルマで奥さんと一緒に色いろな場所に出かけて、ふたりの楽しい思い出を沢山作りました。

子どもが大きくなったら「家族の誰が乗っても、さまになるクルマ」への「換え活」がおすすめ

――では子どもがもう少し大きくなると、どうなるのでしょうか?

岡崎五朗:今度は子どもが免許を取って、クルマに乗る時期になる。そうなったとき、「じゃあ理想のファミリーカーって何なの?」と考えてみるんです。
子どもが自分の彼、あるいは彼女とデートに使うかもしれない。もしくは家のクルマをクラブ活動に使うかもしれない。
そんなときに「(親からの)借り物に見えない」ことや、「そこそこカッコいい」ことって、結構重要です。

――そういう場合は、どんなクルマを選べばよいのでしょう?

岡崎五朗:SUVはもちろんですが、最近だとクロスオーバータイプのセダン(*1)やファストバック(*2)なんて、とてもいいと思います。
かつてお父さんのクルマは、セダンが多かった。でも子どもの目線で言うと、親父っぽくて「ちょっと貸して」なんて言えなかったと思うんです。ですがもしこれがスタイリッシュなセダンだったら、子どもも乗って行けますよね。
つまりこの世代のファミリーカーは、「家族の誰が乗っていても、さまになるクルマ」を選ぶといいんじゃないか? と思うんです。

――子育て世代とひとくちに言うけれど、自分たちがその中でもどのフェーズにいるかを理解することが、楽しいカーライフを送る秘訣であり「換え活」の意義があるんですね。クルマのオーナーであるお父さんも、色々考えないといけないですね。

岡崎五朗:この時期は、パパとしての自分が、夫として、男としての自分に戻れるチャンスでもあるんです。
もちろんそんな風に考えずに、ずっとミニバンでもいいんですよ。ちょっと古い話ですが、かつて自動車メーカーの方から、「一度3列ミニバンを買うと、だいたい15年くらい乗り続けるというデータがある」と聞きました。
これって子どもが生まれて、中学を卒業するくらいまでの時間ですよね。この間ずっと、3列シート。自分の場合は、ちょっと長過ぎるかな……と感じます。15年も乗っていると、その雰囲気も抜けきらないだろうなと。
ただそこの考え方は人それぞれなので、あくまでもひとつのアイデアとして聞いてください。

――SUVやクロスオーバータイプのセダンなどであれば、子どもが巣立ったあとの夫婦二人の暮らしにも適していそうですね。
(*1)クロスオーバータイプのセダン
クロスオーバーとは文字通り他の要素が「交じり合う」ことを意味しており、自動車の場合は主に、SUV車と要素をミックスすることに使われます。つまり「クロスオーバータイプのセダン」は、車高が高かったり大きなタイヤを履いていたりと、セダンなのにSUVのような要素を持つ車になっていることを意味します。

(*2)ファストバック
自動車の後半部分の形状のひとつ。ルーフからトランクにかけてなだらかに傾斜しているデザインで、自動車全体のフォルムの美しさを強調することができます。あくまで呼び方のひとつであり、決まった定義はありません。「クーペスタイル」などと呼ぶときもあります。

最後の買い替えは、親の介護も視野に入れた「換え活」を

――ではクルマの乗り換えの最後は、子育てが終わったとき、となりそうですか。

岡崎五朗:夫婦でふたりの時間があって、そこからもう少し時間が経つと、今度は自分の親の介護が必要になってくる可能性があります。
そのときはあまり床の高くないクルマの方が、乗り降りが楽だったりするわけです。

――またミニバンに戻る感じでしょうか?

岡崎五朗:ただ今度は週末どこかにキャンプに行ったり、荷物を沢山積むわけではないので、小さなミニバンでいいでしょうね。
今は軽自動車のバンや5ナンバーサイズのミニバンでも、介護車両の設定や装備が充実してきましたね。

――最後に、岡崎さんはこれからのファミリーカーが、どのように変わっていくと思いますか?

岡崎五朗:最初はミニバンがファミリーカーの中心にいました。そして「もっとカッコいいクルマに乗りたい!」と思う人たちがSUVを選び出して、これがもうひとつのトレンドになった。SUVは見た目と実用性をうまく両立しているクルマなんです。車高が高いため見渡し良く、長時間のドライブでも疲れにくい。悪路に強いオフロードタイプや、オンロード重視のスポーティタイプなど選択肢も幅広い。また、荷室が広いためレジャーにも最適です。

SUVは、流行から、いまや定番になったと言えます。
ただこの時代が長く続いていて、これに替わるものが、まだ見つかっていない。
ひとつのヒントとしては、今後はさっきも言った「セダンのクロスオーバー」と「背の高いファストバッククーペ」が流行ると思います。
ドイツ車はもともとこのタイプを出していたのですが、今ではフランス車や日本車にも、こうした、SUVとセダンをミックスさせたクルマが出てきました。
実用性だけじゃなくて、見ても乗っても楽しいクルマが増えてくるのではないかと思います。


■プロフィール
岡崎五朗(おかざきごろう)
モータージャーナリスト / AJAJ理事

1966年生まれ。 モータージャーナリスト。
青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中

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