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2022.11.25
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1年間に試乗する車は150台以上。「生活を共にして気持ちが良いかどうか」が自動車を評価するうえでのポイント、という自動車評論家の岡崎五朗さんをゲストに迎え、3回にわたって自動車の「換え活」についてお聞きします。 (全3回の1回目/#2に続く

「 EV=エコカー」の一択が正解? 岡崎さんに聞く、ライフタイルに合わせて考える「EVへの換え活」

1回目のテーマは「電気自動車(EV)への換え活」です。環境問題が叫ばれる昨今、そうした問題をクリアする自動車ということで、メーカーもガソリン車からEVへ大きく舵を切りつつあります。「次の乗り換えは、EVかな」と考えるユーザーも多いはず。そんな大注目のEVですが、果たしてどんな人にもベストな自動車だと言えるのでしょうか? 自動車評論家の岡崎五朗さんに伺います。

環境を考えた自動車の買い換えは本当にEVがベストなの?

――今、自動車の買い換えを考えたときに、まっ先に思い浮かぶのはEVだと思います。CO2排出量ゼロという面でも環境に貢献できますし、ガソリン車のような燃料代が掛かりません。やはり今自動車を買うなら、EVが良いのでしょうか?

岡崎五朗さん(以下敬称略):クルマと環境は切っても切れない関係で、それをエコな観点で購入するというのは、とても良いことです。でも「EV即ち最適解」かといえば、それはあまりに短絡的です。

例えば、誰もが知っているような、海外の高級スポーツカーがあります。これらは環境性能という部分だけで見ると、速くて、ガソリンを沢山使うし音も大きく、エコとは言いづらいイメージを持つ人も多いと思うのですが、実はみなさんが思う以上に、エコな側面を持っています。
なぜなら、そうした高級スポーツカーは、事故以外で廃車にされることは少なく、中古車でもずっと乗り継がれるんですね。極端な話ですが、そうした車のメーカーがリサイクルできないクルマを造ったとしても、最終的にスクラップされるようなことはまず無いので問題ないわけです。
これは極端な例え話ですが、つまりエシカルというものが一筋縄ではいかないということを、まず念頭に置いていただきたいんです。

EVは今確かにとても注目されていて、「次はEVに乗ってもいいな」と思っている人が増えています。
そこには「世の中の役に立ちたい」という気持ちがあると思います。そしてもうひとつは、「新しモノ好き」な日本人の性格があるでしょう。
日本はヨーロッパや北米に比べて「EV後進国」だなんて言われていましたが、今年発売されたある軽自動車EVは、発売されてからたった4カ月で3万台以上の受注を達成しました。これはEVとしては、大ヒットだと思います。

買い換えの補助金も含めてEVは実際にお得なの?

岡崎五朗:さてそんな現状で「果たしてEVがお得なのか?」というと、それは使う人の住環境によって変わってきます。
自宅に充電器がない人が、外部の急速充電器だけを使ってEVを走らせた場合、残念ながらお得ではないのです。
これに対して、自宅で深夜電力を使って安い時間帯に充電すれば、ガソリン車の燃料代よりも安くなります。

とはいえ圧倒的に安いかというと、そんなこともないんです。
ある電力会社の料金を元に試算してみたのですが、昼間の電気料金が1kWhあたり27円、深夜だと20.26円と確かに安い。でもその電力会社の深夜時間帯って、1時から5時までのたった4時間。
また電力プランも様ざまなものが混在していて、わかりにくいですね。
とはいえ走らない日も含めて深夜電力で上手に充電すれば、300~400円で100kmくらい走らせることはできます。ただし急速充電器はそれよりも割高で、プランや利用する充電器の出力によって違ってきますが、100㎞走らせるのにざっくり800円ぐらいでしょうか。

ガソリン車の場合、リッター20km走るクルマだと、ハイオクでも100km走るのに900円いかないくらい(リッター170円台で計算)です。レギュラーガソリンであれば、ガソリン車の方が安くなる場合もあるわけです。

――ちなみに、メンテナンスコストや故障を考えた際、EVの方がコストは高くなりますか?

岡崎五朗:いえ、オイル交換が必要ない分、ガソリン車より安くなると思います。

――ところでEVには国や地域の補助金があると思うのですが、これは今後の普及によっては、無くなってしまうことも考えられますか?

岡崎五朗:海外では、車両購入時の補助金を減らし、その分を充電器などのインフラ整備に使う国が増えてきました。車両購入時の補助金は、EVの良さを知ってもらうための起爆剤なんです。これによってEVの購入に勢いが付けば、大量生産が可能になってコストが下がり、クルマの価格も抑えられるという考え方です。

使い方に応じてEV以外の自動車がベストな場合も

岡崎五朗:ところが、EVの場合は、数が増えるほど問題も出てくるんです。
いま一番問題視されているのが、バッテリーに使われるリチウム。TRADING ECONOMICS(*)の資料によると、2年前のおよそ10倍の価格になっています。今後はさらに上がっていくだろうという予想もなされています
*https://tradingeconomics.com/commodity/lithium

環境に負荷をかけないというエシカルな視点に立つと、リチウムという貴重な資源を使うバッテリーは、できるだけ小さなものを使うのが良いわけです。
だから小さいバッテリーで走る軽自動車EVは、今の時代、理にかなっているクルマです。
補助金が継続されている現在は、EVの買い時と言えますね。

――小さなバッテリーを搭載する軽自動車EVが理にかなっているというのは?

岡崎五朗:軽自動車EVは満充電にして走れる航続距離が短いのですが、そもそも軽自動車は街乗りで使われる場合が多いので航続距離が問題になりにくい。で、航続距離さえ割り切ってしまえば、小さくて軽くて値段も安いという軽自動車ならではのメリットが浮かび上がってくるわけです。加えて、山道や発進加速時など、ガソリンエンジンの軽自動車であればエンジン回転を上げなければいけない場面でも、EVなら静かに、スムースに、力強く走ってくれます。試乗したらきっと軽自動車のイメージが変わると思いますよ。
ですから、現状でEVに乗るなら近場で使うのがベスト。充電は自宅で、夜間の安い時間帯を利用しながら長い時間をかけて行う。急激な充電を避けることで、バッテリーも長持ちします。

ライフスタイルに合ったエコカーを考えよう

――あらためて、岡崎さんが考える、エコカーの基準というのは?

岡崎五朗:もしも今、最もエコな車に乗りたいと思うなら、低燃費で、車重が軽い、使っている材料そのものが少ない、そんな車がお勧めです。

2000年からの20年で、各国の自動車メーカーがどれだけ自動車の排出ガスを減らしてきたか。日本自動車工業会が21年にまとめた資料(過去20年間の自動車二酸化炭素排出量の国際比較)を見ると、アメリカは増えてます。ドイツも3%ほど増えている。フランスは、ちょっと減らしている。
そんな中で日本は23%と、圧倒的に二酸化炭素を削減しているんですね。
なんでこれができたかといえば、実は軽自動車とハイブリッド車を普及させたからです。
ただEVを増やせば良いのではない、というのはまさにこのこと。「値段が安くてみんなが買いやすいエコカーを出す」ということが、環境のためにはとても重要なんです。

――トータルに資源を節約できるものがエコカーだということですね?

岡崎五朗:そうです。ガソリン車だって、使い方が合っていれば効率的に走れるんですよ。
街乗りが多い人はEV、週末はキャンプに遠乗りするのならガソリン車やディーゼル車というように今ある選択肢の中で、EVを快適かつ便利に使える人たちはそれを選べばよいし、そうでなくても自分に合ったエコカーを選べばいいんです。


まとめ

環境負荷解消の担い手だとの認識を持っていたEVですが、多角的な視点から論じてくださる岡崎さんのお話を聞くと、必ずしもそうとは言い切れないことがわかりました。トータルに資源を節約できるものが、本当のエコカーであるとのこと。EV、FCV、ガソリン車、いくつもの選択肢がある中、自分たちのスタイルに合ったベストな自動車はどれなのか。その中でEVへの「換え活」の可能性がどれくらいあるのかを考えてみてはいかがでしょうか。

次回は、家族の人数や暮らし方が変わった場合などの、ライフスタイルの変化に合わせた自動車の買い換えがテーマです。子育て世代層の場合だと、どういった車に乗り換えをすればより良いカーライフが楽しめるのか、また、子育てが終わり夫婦二人だけになった場合の車の「換え活」についても、岡崎さんに自動車選びのご意見を伺います。


■プロフィール
岡崎五朗(おかざきごろう)
モータージャーナリスト / AJAJ理事

1966年生まれ。 モータージャーナリスト。
青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中

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