
人気スタイリスト・亀恭子さんに教わる「換え活」 環境にもやさしいおしゃれコーデとは?
1回目のテーマは「シルエットから素材への換え活」です。普段、お店に入って「形がきれい」「色が好み」「デザインがいい」という理由で服を購入する人が多いと思います。一目ぼれで買い物をするのもいいけれど、時には素材に注目してみては? 例えば環境や社会に負荷をかけない「エシカル素材*」にこだわってみたら、ファッションはどう変わるのか? 亀さんにお聞きしました。
*エシカル素材・・・自然素材、リサイクル素材など、人にも環境にも社会にもやさしい素材のこと
ファッション性、デザイン性のあるエシカル素材が増えてきた
――環境や社会にやさしい素材として、最近よく耳にする「エシカル素材」。ファッション業界ではどのように受け止められているのでしょうか。
亀恭子さん(以下敬称略):「エシカル」というと、ひと昔前は、ちょっとほっこり、垢抜けない、というイメージが強かったし、市場にもそれほど出回っていませんでした。それがSDGsへの意識の高まりとともにファッション界にも変化が起こり、今はファッション性、デザイン性も両立したアイテムがすごく増えた印象です。みなさんがいつもお買い物をするデイリーなブランドにも当たり前のように置いてあり、スタンダードな素材になりつつあります。
オーガニックコットンやリネンといった天然のエシカル素材は、そもそもキャミソールなどのインナー中心のブランドでは早くから取り入れられていましたから、みなさんもとっつきやすいのではないでしょうか。私には小さい子どもがいますが、肌が大人に比べてデリケートなことも考え、インナー類の素材は気にしています。
ただ、実はオーガニックコットンと普通のコットンで、肌触りに大きな違いはありません。オーガニックでないから肌に負担があるわけでもない。ではなぜオーガニックを選ぶかというと、地球環境や働く人にやさしい、という点に共感するからです。そんな意識を持ちながら、同時にファッションも楽しめるといいなと思っています。

今冬のおすすめはエシカル素材のアウター
――亀さんご自身が愛用しているエシカル素材のアイテムはありますか?
亀恭子:ペットボトルの廃材からつくられたシューズのブランドとお仕事をする機会があり、プライベートでもよく履くようになりました。それまで、エシカル素材を採り入れることはいいことだ、と頭ではわかっていてもきっかけがなく、実生活に採り入れるようになったのは、それがきっかけです。
でも愛用している理由は、地球環境に優しいものか? という大きな課題以前に、とても軽くて、歩きやすく、履き心地がいいこと。デザイナーがもともとファッション分野出身ということもあり、見た目もすごくおしゃれで気が利いているんです。人に聞かれたら「エシカル素材」と答えますが、それも日頃はうっかり忘れてしまっています。

――では、注目しているエシカル素材は?
亀恭子:最近、ファッション市場でよく見かけて、自分も気になるのは、エコレザーやエコファーです。昔は「エコ」ではなく「フェイク」という言い方をしましたよね(笑)。本物を否定するわけではありませんが、エコレザーやエコファーの良さは、扱いが楽なこと。雨に濡れてもサッと拭けば雨染みになることもなく、家で手洗いできるものもあり、イージーケアできるところが大きな機能メリットだと思います。
アイテムとしてはバッグや小物もありますが、身にまとうお洋服、たとえばエコレザーのスカートやエコファーのジャケットなどが気になっています。デザインも素敵で、時代が良い意味で変化しているなと感じます。
――この冬おすすめのエシカルファッションも、ぜひ教えてください。
亀恭子:今、ご紹介したエコレザー、エコファーのアイテムの他に、プチプラブランドで見たエコダウンもお勧めです。きれいなミントグリーンなど色味が豊富で、私もその辺りのアウターをひとつ、ワードローブに加えたいなと思っています。
エシカル素材を取り入れた場合のコーディネートだと、私の場合は洗えるシルクとか、サテン調のアイテムとか、ちょっと艶感のある素材を組み合わせて楽しんでいます。雰囲気の異なる素材を組み合わせることで、こなれたおしゃれ感が出せると思います。
地球のため、働く人のために、と考え込んでも窮屈になってしまいます。衣食住すべてそうですが、ファッションも「うれしい」「楽しい」という気持ちが欠けてしまうと、義務的になってしまう。今年の冬は、質感の異なるエシカル素材がたくさん出てきているので、特に意識していなくても好きなものが見つかる気がします。
――「これいいな」と思って手に取ったら、エシカル素材だったということが増えそうですね!
着なくなった服は捨てずに次につなげる行動を
――ファッションは移り変わりが早いイメージですが、エシカル素材、エシカルファッションは今後も定着していき、その流れでのファッションの換え活が広がると思われますか?
亀恭子:はい。素材はもちろんですが、受注生産型で在庫を持たない、それによって廃棄もしないブランドも増えつつあり、エシカルな考え方はこの先も維持されていくと思います。
買う側も、長く着られるもの、本当に好きなものを選んで愛用することで、結果、コスパもよくなり、捨てる服が減っていくと思います。全体として、じっくり吟味してお買い物をする世の中になっていくのではないでしょうか。私も、自分が実際にエシカルな靴にトライしたことで、以前よりも、よりエシカルに意識が向くようになりました。
――なるほど、自分の中にまず取り込んでみることが、大事なんですね。世の中にエシカルなものがさらに増えている今、例えば自分の気持ちを「換え活」してみようか、というお試し気分でエシカルな服をチョイスしてみる。そうすることで、「自分も人や社会を大事にする輪の中に入っている、この服を作った人たちとつながっている」という実感が湧くと思います。そこから、その流れで次のモノをチョイスしていけばよさそうですね。今お話にも出ましたが、エシカルな行動という意味合いで、亀さんが実践されていることをお聞かせいただけますか?
亀恭子:洋服でいえば、着なくなったものをそのまま捨てるのではなく、リセールマーケットに出すとか、リサイクルボックスのあるお店(H&M、ZARA、洋服の青山など)に持っていくとか、“捨てずに次につなげる”という行動はなるべく意識しています。
子どもたちの服も、サイズアウトしてしまったら状態のいいものを選んでお友達に渡すようにしています。ママたちの間では普通に行われていることで、我が家でも譲り受けた服をよく着ていますよ。
お洋服以外では、フードロスを減らす大切さを、子どもたちが小さいときから教えてあげたいと思うようになりました。食べ物を捨てるのはもったいないし、環境にも良くないことだと教えながら、自分でも学んでいるところです。
また、調味料は後ろの表示を見て、なるべく体にやさしいものを買うようにしています。ちょっと割高ですが、お洋服に使うお金に比べれば大きな金額ではありませんし(笑)。それよりも、口に入れるものをちゃんと調べて選びたいなと思っています。

――エシカルファッションへの「換え活」がきっかけで、亀さんご自身にも変化があったんですね。今日はどうもありがとうございました。
まとめ
エシカル素材と上手に付き合うには、「これは環境にいいから」と難しく考えすぎないことだと亀さんは言います。まずは、デザインや着心地が気に入ったエシカル素材の服を買ってみる。買ったら長く丁寧に着る。着なくなったらリセールに出す・・・そんなマインドで、エシカルファッションを楽しんでみてはいかがでしょうか。
次回は、「おしゃれを楽しみたいのに、洋服選びに時間がかけられない」というお悩みに応える「時短コーデのコツ」を教えていただきます。
■プロフィール
亀 恭子(かめ きょうこ)
約3年間のOL生活を経て、2001年、女性ファッション誌「CanCam」でスタイリストデビュー。ベーシックなスタイルにトレンドを上手に効かせた女性らしいスタイリングが亀流。ファッション誌などで数多くの有名モデルスタイリングを手がけ、モデルからも指名されるなど、彼女のセンスを信頼している著名人も多い。近年ではアパレルブランドとのコラボレーションやパーソナルスタイリングでも活動。他トークショー、テレビ、広告出演やラジオなど、自身がメディアでも活躍中。